日吉の家に向かいながら、私はお母さんに簡単に説明した。日吉は、そんなことは言ったことが無いと。だから、どういうことなのか詳しく説明してもらうために、今から行くと。
「・・・そういうことなら、まかせといて。」
そう言って、お母さんは、また加速した。・・・・・・事故、しないでよ。
日吉の家に着き、私と日吉が降りようとすると、お母さんが言った。
「お母さんも行くわ。」
「え、なんでよ。」
私は、少し動揺して、聞いた。すると、お母さんは言った。
「だって、お母さんも納得できないもの。・・・ちゃんと、聞きたいのよ。」
それだけ、私達のことを思ってくれているのか、と私は少し感動した。でも、今はそんなことを言っている場合では、ない。
家に入ろうとすると、如月さんが出てきた。
「どうなされましたか。」
「俺の親父は?」
「旦那様でしたら、いつもの部屋にいらっしゃると思いますが。」
それを聞くと、日吉は早足で向かった。私とお母さんも置いていかれないように、ついていった。1人、如月さんだけが首をかしげていた。
「おい。」
それだけ言って、日吉は部屋に入った。
「どうした、若。部活は無いのか?」
そう、優しい声で日吉のお父さんは言った。けれど、日吉に続いて、私やお母さんが入ってくると、表情が変わった。
「・・・何の御用ですか。」
「お前こそ、どういうつもりだ。」
そう、日吉が言った。・・・明らかに怒っている。
「何のことだ?」
「とぼけんな!」
日吉が大声で言った。
「なぜ、俺達を放そうとする?そもそも、この見合いに無理矢理、連れて行ったのは、あんたの方だろ。」
「若。人前で、そういう口調は止しなさい。」
「話をそらすな。なぜ、そんなことを言ったんだ、って聞いてるんだ。」
「・・・・・・・・・。」
日吉のお父さんが黙った。けれど、日吉はまだ言った。
「黙っていても、わからない。」
それを聞いて、日吉が本気で怒ってくれている、ととても嬉しくなった。・・・だけど、ほんの少し恐い。
「若。さんのところは、お見合い結婚ではないということが、最近わかったんだ。」
「・・・それが何の関係がある?」
「だから、そういう家とは、結婚できないんだ。」
はっきりと、日吉のお父さんは言った。私は、悔しくなった。・・・ここには、お母さん本人がいるのに。
「なら、出て行く。俺がこの家から出て行けば、問題ないだろう。」
「日吉。何言ってんの?」
私は、止めた。そんなことで、日吉が出て行く必要は無いよ。
「こんな所、出て行く。」
「日吉!たしかに、私だって悔しいし、日吉ともっと一緒にいたいけど!そんなことはしないで。」
「じゃあ、どうするって言うんだ?」
「私が絶対に納得させる!日吉だって、私と一緒にいたいと思ってくれてるなら、それを手伝ってくれればいいでしょ?逃げたって、何にもならないって、日吉が私に教えてくれたじゃない。」
「・・・・・・。」
「だから、そんなこと言わないで。」
「・・・わかった。」
そう言った日吉は、いつもの日吉だった。・・・さぁ、ここから反撃(?)開始よ、と思っていたら、いつの間にか、お母さんが泣いていた。
「お、お母さん?」
まさか、さっきの日吉のお父さんの発言で、傷付いたの?
「ご、ごめんなさい。」
お母さんは、泣きながら言った。・・・お母さんの所為じゃないよ、と思っていたら。
「ごめんなさい、日吉さん。私・・・。」
と、日吉のお父さんに謝った。・・・謝る必要なんて、無い!
「いやいや、いいんですよ。私だって、泣きそうでしたからねー。」
・・・?
「でも、私が泣いてしまって、作戦が台無し・・・。」
作戦・・・??
「そんなこと、ないですよ。もう、作戦は成功しました。だからこそ、私も泣きそうになったんです。」
作戦、成功・・・???
「ちょっと待って下さい!・・・何の話ですか。」
私がそう聞いた。
「あぁ、ごめんね。2人とも。」
日吉のお父さんが、私と日吉に向かって言った。私と日吉は2人で、ポカーンとしてしまった。
「実は、これ――。」
そう言って、日吉のお父さんは話し出した。
「えー?!じゃあ、私達、何のために・・・。」
「俺なんて、部活も休んだのに。」
「いや、でもさっきのは、本当に感動したよ。2人とも。」
「「・・・・・・・・・///」」
「・・・お、お母さんも、泣き止んでよ!恥ずかしいでしょ?!」
「だって・・・。」
実は、これは全て嘘だった、と私達は聞かされた。私も日吉もお見合い嫌いだったから、お見合いで出会った人なんて好きになれない、と素直になれなかったら・・・、と私と日吉の両親が心配したらしい。だから、本当にお互いが想い合っているのかどうか確かめるために、こんな作戦が思いついたらしい。・・・・・・すごい妄想ね。
「日吉。まだ部活終わってないよね?」
「・・・あぁ。」
「じゃあ、戻ろう。時間が勿体無いよ。・・・お母さん、送ってくれるよね?」
「えぇ。もちろん!こんな2人を見れたんだから・・・。」
「もう、いいってば!」
「今日は、赤飯にしましょう!」
「さん。それはいい考えですね!」
そんな話をしていたお母さんと日吉のお父さんを無視して、私と日吉は無言のまま、部屋を出、お母さんの車に乗り込んだ。
バタン!
「それじゃ、日吉。部活、頑張って。・・・っていうか、本当にごめんね。こんなことに巻き込んじゃって・・・。」
「の所為じゃないだろ。」
「・・・まぁね。」
そう言って、私は苦笑した。たしかに、私の所為ではないけど、やっぱり日吉の部活の時間を無駄にしたのは悪い気がして、謝った。
「・・・。」
「ん?」
「見て行けばいいだろ。」
そう日吉が言った。
「・・・うん、そうしたいけどね。前にも言ったでしょ。」
「そうか。」
「それじゃ。」
「あぁ。」
そして、私は車に戻った。すると、お母さんが何かを持っていた。
「・・・これ。今日のお詫びよ。」
「・・・・・・本当に、頼んだの?」
「もちろん!さあ、早く。」
そう言って、お母さんはそれを私に差し出した。・・・早く、ということは今、使え、ということなのだろう。
「ありがとう。」
私はすばやく準備して、車から降りた。そして、氷帝のコートへ向かった。
「そこ!しっかり走れ!!」
そう跡部さんが叫んでいた。すると、跡部さんがこちらをちらりと見た。・・・気がついたのだろうか。そんなはずはないのだけれど。
「おい、日吉。」
「なんですか。」
その後の2人の会話は聞こえなかった。だけど、大体はわかった。なざなら、日吉がこちらを見て、驚いた顔をしていたからだ。
「・・・かわいい。」
そう、誰にも聞こえないように小声で言った。誰にも気づかれないように。
部活が終わって、私は日吉を待つことにした。・・・たぶん、日吉は私を探すだろうから。
「・・・おい、お前。帰ったんじゃ・・・。」
日吉は走ってきて、そう言った。
「そうしようと思ったんだけどね。お母さんにお詫びに、ってこれを貰ったから。」
そう言いながら、私は自分の服を見た。
「お母さんにも、あの時の話をしたの。氷帝に行きたいんだけど、目立っちゃうから――って、そしたら、これを頼んどいてくれたみたいで。私の叔母さん、つまりは私のお母さんの妹なんだけど、その叔母さんの仕事が、制服関係を作る仕事で。」
そう。私は今、氷帝の指定服を着ていた。だから、私は家に帰らず、氷帝に残り、部活を見たというわけだ。
「今日は、氷帝の生徒。・・・でも、跡部さんにはばれたみたい。さすが。」
「・・・インサイトか。」
日吉が呟いたけれど、私には聞こえなかった。
「え・・・?」
「いや、何でもない。」
そう言った、日吉の表情がどこか嬉しそうだったので、別にいいかと思った。
「ねぇ、日吉。途中まで一緒に帰っていい?」
「・・・あぁ。」
「この前は、散々だったね。」
「・・・本当に、な。」
今日は土曜日。・・・あの日に言ってもよかったけど、あの日はいろいろと大変だったから、最初の予定(?)どおり、あのことは、今日言うことにした。
「日吉。私ね・・・。部活、再登録したの。」
「・・・本当か。」
「うん。日吉に言われたから。」
「そうか。」
日吉の声が弾んだように聞こえたのは、気のせいではないだろう。
「・・・そういえば。あの日。私の家、本当に赤飯だったんだ。ビックリしたよ。」
「お前も、か。」
そう日吉が言った。
「・・・も?」
「俺の家も、そうだった。」
「・・・・・・本当にやるとは。」
「まぁ、あんな嘘を思いつくような奴らだしな。」
「たしかに。」
そう言って、2人で笑った。これからも、こうやって側にいて、一緒に笑い合って、励ましあっていこうね、日吉。
それにしても、本当に両方とも、あの日が赤飯だったとは・・・。親同士も、息が合っているみたいで。良いような、悪いような・・・。
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やっと終わりました(笑)。本当、長々と…orz
最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございました!
あ、そうそう!ちなみに、タイトル「Go To The」の後は「日吉」か「氷帝」です。
第1話がダッシュしている場面から始まりますので、このタイトルです。
日吉に会うため、なので前者の方がいいかもしれませんね。
決して、跡部さんの歌「Go To The Top !」とは関係ありませんので…!(笑)